亡くなった方が遺言書を残していなかった場合や、遺言書があっても遺産の全てが網羅されていなかった場合にはその漏れていた部分の遺産について、「遺産分割」をする必要があります。

遺産分割とは

遺産分割とは、亡くなった方(被相続人)の遺産を、相続人の皆で分けることです(民法906条以下)。

遺産にどんなものが含まれるのかについては、この記事をみてください。

誰が相続人なのかについては、この記事を参考に!

 

大事なのは

「相続人全員」で合意すること、です。

相続放棄をしている方がいらっしゃるときには相続人の範囲が変わるので、注意してください。相続人全員の合意がない遺産分割協議は、無効になります。 

期限はあるの?

遺産分割の話し合いをすることそのものに期限や時効はありません。

でも、別の会で詳しくお話しますが相続税の申告期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10ヶ月以内です。

したがって、相続税が発生する程度に遺産が存在する場合には、出来るだけ早く話し合いをすることをお勧めします。

まず遺言を探そう

遺産分割協議に入る前に、まず遺言を探しましょう。

遺言があれば話し合いの前提が変わります。
そもそも話し合いをする必要がなくなるかもしれません。

家の中にはありませんでしたか?

銀行の貸金庫はありませんか?

公証役場で検索しましたか?

法務局にはありませんか?【2020年7月10日以降の相続の場合】

法務局以外から見つかった自筆証書遺言の場合、家庭裁判所で検認することを忘れずに。

遺産分割協議の前に

遺言がないか、遺言ですべての遺産の分け方を決められない場合には、相続人全員で遺産分割協議をすることになります。

でもちょっと待って。

遺産分割協議に先立ってまず相続人のみなさんで確認してほしいことがあります。

相続人と遺産の範囲を確認する。

まず、話し合おうとしている相続人がこれで全員かどうかを確認しましょう。

被相続人(亡くなった人)の生まれてから亡くなるまでの戸籍をたどれば、両親や配偶者、子が分かります。ただ、その人たちが生きているかどうか被相続人の戸籍を見るだけでは分からないときは、(元)配偶者や子の戸籍を取る必要があります。

認知している非嫡出子(婚姻関係にない人との子)がいる場合、その旨も戸籍に載ってきます(認知していない子がいる場合は、さすがに戸籍だけでは分かりませんので、この段階では仕方ありません。)。

身分上相続人ではあるけども、資格を喪失した人(廃除、欠格事由)についても、事前に確認しておく必要があります。

遺産の範囲の確認も必要です。

基本的には亡くなった時点で被相続人が持っていた財産や権利義務関係が遺産ですが、この中に、「この財産は、被相続人のものではなくもともと自分のものだ」といったものがある場合、その財産については遺産分割協議に先だってそこを解決しないといけません。話し合いで解決できないときは遺産確認訴訟などの民事裁判を起こす必要があります。

価値が明確でない遺産(不動産、芸術品など)の場合、その評価で争いになることもあります。可能な限り評価額について相続人間で協議をしておきましょう。

相続分を決める。

各相続人の法定相続分を間違いなく計算しましょう。

代襲相続や養子などが絡むと計算が複雑になることがあります。遺留分などを算定する基礎にもなります。

また、特別受益や寄与分の主張がある場合、その評価をして、具体的相続分を算定する必要があることもあります。

遺産分割協議〜遺産の分け方を決める〜

こうした前提問題をクリアしてから、具体的な分け方を相続人同士で協議することになります。

具体的な分け方を分類するとおおよそ次の3つになります。

現物分割

遺産をそのままの形で分けようというのが、現物分割です。

この預金はAさん、この証券はBさん、この不動産はCさん、といった分け方が公平にできるのがベストですが、なかなかうまくいくケースは稀です。

不動産については、共有の取得にしたり、物理的に分ける(分筆する)ことで現物分割をすることもあります。

換価分割

遺産をお金に換えて(つまり売却して)その代金を分けようというのが換価分割です。

現実に分ける前にみんなで協力して売却できればベストですが、分割協議の後で売却して分けるというケースでは、当てが外れた(売れなかった、お金が入ってこなかったなど)場合も想定しておく必要があります。

代償分割

遺産を特定の人が取得し、その他の相続人には代わりとなる金銭を支払うというのが代償分割です。

不動産のように、容易に分けられない、または分けるのが適当ではない遺産などの場合によく用いられます。どうしても相当なお金を用意する必要が出てきますので、場合を選ぶかもしれません。

また、預金や株などのように、分けることが容易な財産でもこの代償分割を使うことがあります。預金などの取得を特定の人にしておけば、その後の預金の解約や換価などで他の相続人の協力がいらなくなり、手間がかからなくなることから非常に便利な方法になります。評価も一見して明らかですので、他の相続人の抵抗も少ない方法です。

遺産分割協議〜遺産分割協議書の作成〜

遺産の分け方が決まったら、遺産分割協議書を作成します。

遺言などと違い、方式が法律で決まっているわけではありませんが、解釈の違いや、財産の漏れ、特定の不十分など、後日トラブルにならないようにしないといけません。

銀行などの金融機関や不動産登記のためには、各相続人が実印で押印し、印鑑証明書を用意していただく必要があります。

また、万が一後日発見された遺産が出てきたときの扱いをどうするかを決めておくことも、のちのち再度の分割協議をする手間が省ける大切な要素です。

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遺産分割調停

相続人同士での話し合いがまとまらないときは、家庭裁判所に調停を申し立てることになります。

申立人と相手方

調停を申し立てた側が「申立人」、申し立てられた側が「相手方」といいます。

遺産分割調停においては、相続人全員が当事者になる必要がありますので、「申立人」以外の相続人は全員「相手方」ということになります。

実際には意見の対立がない人もまとめて「相手方」になるので、家庭裁判所の「相手方」待合室では呉越同舟のような雰囲気になることもあります。

事前に合意ができる相続人からは「相続分の譲渡」を受けて、その人の相続分をもらっておけば、今後の協議に参加しなくてもいいという裏技(?)もあります。

管轄

調停の管轄は、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所になります。相手方が申立人にとって縁もゆかりもない遠隔地にある場合でも、原則としてその裁判所に調停を申し立てることになります。

相手方が複数いる場合、どの相手方の住所地であって管轄になりますので、選択肢は増えます。

また、相手方と遺産の分割方法については折り合えないけれども、「どの裁判所で話し合うか」という合意だけはできる場合もあります。その場合は、「合意で定めた」家庭裁判所も管轄裁判所にできますので、中間地点や、新幹線や飛行機の便のいい東京家庭裁判所にしよう、などこともできます。

実際の流れ

申立書が受理されると、申立人の都合を確認して第1回の調停期日が決まり、相手方に対して呼出がなされます。

調停は、家事審判官(裁判官)と家事調停委員(男女の2名組)、合計3名で担当されますが、実際の話し合いの場面は家事調停委員の2名が取り仕切ります。

一般的には、一番最初に当事者全員が一堂に会して、手続きの説明や進行の方法について説明があり、その後個別に事情を確認する流れになります。通常はまず申立人の側の事情を聴き取り、その後交代して相手方の聴き取り、さらにそれを受けて申立人という、交互聴き取りの方式で行われます。

話し合いの結果がまとまれば調停成立。

家事審判官立ち会いの下、合意した調停条項の読み上げがあり、間違いなければその内容が「調停調書」という裁判所書記官作成の書面にまとめられます。

これは判決と同じ効力を持ちますので、約束が守られないと強制執行することができます。

遺産分割審判

相続人間で、遺産分割についての協議が調わないとき、または協議することができないときは、その分割を家庭裁判所に請求することができます。

裁判所に分割方法を決めてもらう方法が「審判」です。

典型的には、遺産分割調停が不成立に終わったときに審判に移行します。

それ以外でも、相続人の一部の行方が分からなったり、一切の話し合いを拒否していることが明らかだったりする場面では、調停を申し立てないでいきなり審判の申立をすることもあります。

もっとも、いきなり審判を申し立てても、家庭裁判所は、いちど調停に付する(付調停)決定をするのが一般的なようです。

確実な協議のために

遺産分割協議の場面では、法律を理解して先を見越した主張が必要になります。

迷ったらいちど専門家に相談されてはいかがでしょうか。