川崎の弁護士法人ASKが相続法改正について連載で解説します。

相続法改正に関する最終回は、これまで解説した以外の改正ポイントについて。

少し細かかったり、マニアックで難しい点があるかもしれませんが、お付き合いください。

特定財産承継遺言

「相続させる」遺言に名前がついた!

実務上「〇〇の財産については、長男に相続させる。」といった、いわゆる「相続させる」遺言方式がよく行われています。

以前は、この「相続させる」遺言の効力について説の対立がありましたが、最高裁判所は「遺産分割方法の指定」であると判断しました。

この「相続させる」遺言について、今回の改正において相続させる遺言に「特定財産承継遺言」という名称がつきました。

「特定財産承継遺言」(民法1014条2項)

遺産の分割方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の1人または数人に承継させる旨の遺言

特定財産承継遺言の効力

改正前は、この「相続させる」遺言があった場合、相続発生と同時に財産の所有権が移転すると解釈されていました。

つまり、この遺言の存在を知らずに財産を取得した人は、登記をしているかどうかにかかわらず、遺言に負けてしまう。せっかく取得した財産を相続人に対して返還しなければならないという結論になってしまうのです。

今回の改正において、特定財産承継遺言があっても、法定相続分を超える財産については登記がなければ対抗できないということになりました(899条の2)。

例えば、相続人が長男及び次男、遺産が自宅不動産のみ、遺言で自宅不動産について長男に相続させるとされているケース。

相続させる遺言

次男が何らかの方法で単独の所有権登記をし、この不動産を全部第三者に売ってしまった場合

対抗問題

この登記を信用してこの不動産を取得した第三者は、改正前においては、その第三者は全部について本来の権利者である長男に対して自分の所有権を主張することができませんでした。
逆にいうと、長男は当然に全部の所有権を第三者に主張して、返せといえる権利がありました。

今回の法律改正で、第三者は、本来次男の相続分2分の1を超える部分(要するに2分の1)については長男に対して対抗できるということになります。
逆にいうと、長男は自己の法定相続分しか第三者に主張することができなくなります。

 

相続登記未了の不動産が多数ある昨今において、取引の安全を確保しようというのが今回の改正の目的です。

相続債務の債権者の権利行使について

相続債務(被相続人の借金)は、当然分割とされています。つまり、法定相続人は、法定相続分にしたがった債務を引き継ぐことになります。

それを前提に、遺言において、法定相続分と異なる相続分の指定が行われていた場合(指定相続分)、相続債務に影響を与えるかという問題です。

つまり、相続債務(被相続人の借金)が300万円だった場合において、「長男の相続分を3分の2、二男の相続分を3分の1と定める。」という遺言があったとき、債権者は、二男に対して、150万円(300万円に対する法定相続分2分の1)の請求ができるのか、100万円しか請求できないのかということです。

遺産分割 相続分指定

これまで民法に直接の規定はなかったのですが、最高裁において、このような債権者の関与なく行われる相続分の指定については相続債務に影響を及ぼさないという判断がなされていました(最高裁平成21年3月24日判決)。

二男に対しても150万円の請求ができるということです。

当然のことで、例えば、借金の多い二男に全部債務をかぶせてしまって、二男を自己破産させるという芸当ができてしまっては債権者が泣きを見てしまうからです。

この最高裁判決にしたがった法律改正が行われたのが今回です。

債権者が、指定相続分に応じた債務の承継を承認したときは、承認どおりの承継が認めれます(902条の2)。

一部分割

これまで、遺産の一部についての遺産分割について、実務上行われてきました。

例えば司法書士が、不動産についてだけ遺産分割協議を先行して登記するといった具合です。

法律にはっきり書いていませんでしたが、今回の改正で明記されることになりました(907条)。

一部分割が他の相続人の利益を害するときは認められません。

遺言執行者があるときの相続人の行為の効力について

(マニアック)

遺言執行者がある場合に、相続人が遺言と異なる行為をしたときは、問答無用に無効とされていました。

改正によって、善意の第三者との間では、いわゆる対抗問題として処理されることになりました(1013条2項)。

 


条文

(共同相続における権利の承継の対抗要件)

第899条の2

1 相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第九百一条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。

2 前項の権利が債権である場合において、次条及び第九百一条の規定により算定した相続分を超えて当該債権を承継した共同相続人が当該債権に係る遺言の内容(遺産の分割により当該債権を承継した場合にあっては、当該債権に係る遺産の分割の内容)を明らかにして債務者にその承継の通知をしたときは、共同相続人の全員が債務者に通知をしたものとみなして、同項の規定を適用する。

 

(相続分の指定がある場合の債権者の権利の行使)

第902条の2

被相続人が相続開始の時において有した債務の債権者は、前条の規定による相続分の指定がされた場合であっても、各共同相続人に対し、第九百条及び第九百一条の規定により算定した相続分に応じてその権利を行使することができる。ただし、その債権者が共同相続人の一人に対してその指定された相続分に応じた債務の承継を承認したときは、この限りでない。

 

(遺産の分割の協議又は審判等)

第907条

1 共同相続人は、次条の規定により被相続人が遺言で禁じた場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の全部又は一部の分割をすることができる。

2 遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その全部又は一部の分割を家庭裁判所に請求することができる。ただし、遺産の一部を分割することにより他の共同相続人の利益を害するおそれがある場合におけるその一部の分割については、この限りでない。

3 前項本文の場合において特別の事由があるときは、家庭裁判所は、期間を定めて、遺産の全部又は一部について、その分割を禁ずることができる。

 

(遺言の執行の妨害行為の禁止)

第1013条

1 遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。

2 前項の規定に違反してした行為は、無効とする。ただし、これをもって善意の第三者に対抗することができない。

3 前二項の規定は、相続人の債権者(相続債権者を含む。)が相続財産についてその権利を行使することを妨げない。

 

(特定財産に関する遺言の執行)

第1014条

2 遺産の分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の一人又は数人に承継させる旨の遺言(以下「特定財産承継遺言」という。)があったときは、遺言執行者は、当該共同相続人が第八百九十九条の二第一項に規定する対抗要件を備えるために必要な行為をすることができる。