川崎の弁護士法人ASKが、相続・遺言に関して、連載でお届けします。

遺言で遺贈や生前贈与等があっても、相続人に最低限守られる権利を遺留分といいます。

この権利の行使の方法が変わります!望まない共有状態を避けられることになります。

遺留分侵害額請求制度

これまでは、遺留分を確保するために請求することを「遺留分減殺請求権(いりゅうぶんげんさいせいきゅうけん)」と言っていました。

遺留分減殺請求をすると、遺留分を侵害されている限度で、遺産である不動産や株式などについて共有関係が生じることになります。

遺言で長男に不動産と株式全部を遺贈した場合

長女(遺留分8分の1)が遺留分減殺請求権を行使すると、不動産や株式が共有になる。

遺言で不動産を遺贈するようなケースでは、遺贈を受けた側がその不動産に住んでいるなど、それなりに理由があるケースがほとんどだと思われますが、遺留分減殺請求がされると、請求する人との共有関係が生じてしまいます。

家業である中小企業の場合、株式も共有状態になってしまうことになるため、事業承継に支障があることもあります。

請求する人も、すぐにお金に換えられない他人が住んでいる共有持分よりもお金のほうがありがたいはずです。

したがって、遺留分減殺請求の裁判においては金銭で解決する和解で終わるケースがよくありました。

 

改正民法では、最初から遺留分の請求を金銭の請求としました。これを「遺留分侵害額請求」といいます(私のパソコンでも打ったことのない法律用語ですので、「心外額請求」と変な変換がされてしまいました。)。

長女は8分の1相当額の金銭を取得することになります。

逆に、これまでのような不動産の持ち分などを請求することはできなくなります。

請求された側が、すぐにお金を用意できないこともありえます。そのような事情がある場合、裁判所は、支払いについて期限を付与することもできます。

遺留分の割合については、これまでと変わりません。

計算の方法については若干の変更があります。

遺留分の計算

基本的な考え方

遺留分額の計算は基本的にこれまでどおりです。

兄弟姉妹以外の相続人は、

遺留分を算定するための財産の価額(「被相続人が相続開始の時において有した財産の価額」+「その贈与した財産の価額」ー「債務の全額」)のうち、自己の相続分を乗じた割合に対して、さらに次の割合を乗じた額を受けることになります。

一 直系尊属のみが相続人である場合 三分の一
二 前号に掲げる場合以外の場合 二分の一


たとえば、

配偶者と子が相続人の場合、それぞれの法定相続分の2分の1が遺留分

直系尊属だけが相続人の場合、法定相続分の3分の1が遺留分

兄弟姉妹には遺留分はない

過去の贈与の取扱い

遺留分算定のための財産の価額は、

「被相続人が相続開始の時において有した財産の価額」+「その贈与した財産の価額」ー「債務の全額」

という計算をするということはご説明しました。

ここで、加算する「その贈与した財産の価額」についてご説明します。

【相続人以外に対する贈与】

相続開始前の1年間にしたものに限って、加算します(特別受益は関係なし)。

【相続人に対する贈与】

相続人に対する贈与は、特別受益に該当する贈与で、かつ相続開始前の10年間にされたものに限って加算します。

(現行民法は、加算する範囲を10年に限っていませんでした。)

時効について

遺留分侵害額の請求権は、
遺留分権利者が、

①相続の開始及び
②遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時

から1年間行使しないときは、時効によって消滅します。

相続開始の時から10年を経過したときも、請求できなくなります。

支払い期限の付与について

裁判上、遺留分侵害額の請求をされた人が、ただちに金銭を支払うことができない場合、支払期限の付与の請求をすれば、裁判所はその債務の全部または一部について相当の期限の付与をすることができるとされています。

贈与を受けたものが不動産や自社の株式だったりすると、ただちに現金が用意できるとは限らず、結局競売等になってしまうと、今回の改正の意義が乏しくなってしまうからです。

専門家に相談を

遺留分侵害は、遺言があれば「あ、自分の相続分が少ない!」と気がつきやすいのですが、他の相続人や第三者に対する生前贈与がある場合なども起こりえます。

亡くなった人が過去に贈与をしていたという場合、いちど専門家に相談していただいた方が安心かも知れません。期限も短めに設定されていますので。

 

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目次


条文

第九章 遺留分
(遺留分の帰属及びその割合)
第千四十二条 兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次条第一項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合を乗じた額を受ける。
一 直系尊属のみが相続人である場合 三分の一
二 前号に掲げる場合以外の場合 二分の一
2 相続人が数人ある場合には、前項各号に定める割合は、これらに第九百条及び第九百一条の規定により算定したその各自の相続分を乗じた割合とする。
(遺留分を算定するための財産の価額)
第千四十三条 遺留分を算定するための財産の価額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除した額とする。
2 条件付きの権利又は存続期間の不確定な権利は、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従って、その価格を定める。
第千四十四条 贈与は、相続開始前の一年間にしたものに限り、前条の規定によりその価額を算入する。当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、一年前の日より前にしたものについても、同様とする。
2 第九百四条の規定は、前項に規定する贈与の価額について準用する。
3 相続人に対する贈与についての第一項の規定の適用については、同項中「一年」とあるのは「十年」と、「価額」とあるのは「価額(婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与の価額に限る。)」とする。
第千四十五条 負担付贈与がされた場合における第千四十三条第一項に規定する贈与した財産の価額は、その目的の価額から負担の価額を控除した額とする。
2 不相当な対価をもってした有償行為は、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってしたものに限り、当該対価を負担の価額とする負担付贈与とみなす。
(遺留分侵害額の請求)
第千四十六条 遺留分権利者及びその承継人は、受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人を含む。以下この章において同じ。)又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。
2 遺留分侵害額は、第千四十二条の規定による遺留分から第一号及び第二号に掲げる額を控除し、これに第三号に掲げる額を加算して算定する。
一 遺留分権利者が受けた遺贈又は第九百三条第一項に規定する贈与の価額
二 第九百条から第九百二条まで、第九百三条及び第九百四条の規定により算定した相続分に応じて遺留分権利者が取得すべき遺産の価額
三 被相続人が相続開始の時において有した債務のうち、第八百九十九条の規定により遺留分権利者が承継する債務(次条第三項において「遺留分権利者承継債務」という。)の額
(受遺者又は受贈者の負担額)
第千四十七条 受遺者又は受贈者は、次の各号の定めるところに従い、遺贈(特定財産承継遺言による財産の承継又は相続分の指定による遺産の取得を含む。以下この章において同じ。)又は贈与(遺留分を算定するための財産の価額に算入されるものに限る。以下この章において同じ。)の目的の価額(受遺
者又は受贈者が相続人である場合にあっては、当該価額から第千四十二条の規定による遺留分として当該相続人が受けるべき額を控除した額)を限度として、遺留分侵害額を負担する。
一 受遺者と受贈者とがあるときは、受遺者が先に負担する。
二 受遺者が複数あるとき、又は受贈者が複数ある場合においてその贈与が同時にされたものであるときは、受遺者又は受贈者がその目的の価額の割合に応じて負担する。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
三 受贈者が複数あるとき(前号に規定する場合を除く。)は、後の贈与に係る受贈者から順次前の贈与に係る受贈者が負担する。
2 第九百四条、第千四十三条第二項及び第千四十五条の規定は、前項に規定する遺贈又は贈与の目的の価額について準用する。
3 前条第一項の請求を受けた受遺者又は受贈者は、遺留分権利者承継債務について弁済その他の債務を消滅させる行為をしたときは、消滅した債務の額の限度において、遺留分権利者に対する意思表示によって第一項の規定により負担する債務を消滅させることができる。この場合において、当該行為によって遺留分権利者に対して取得した求償権は、消滅した当該債務の額の限度において消滅する。
4 受遺者又は受贈者の無資力によって生じた損失は、遺留分権利者の負担に帰する。
5 裁判所は、受遺者又は受贈者の請求により、第一項の規定により負担する債務の全部又は一部の支払につき相当の期限を許与することができる。
(遺留分侵害額請求権の期間の制限)
第千四十八条 遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から十年を経過したときも、同様とする。
(遺留分の放棄)
第千四十九条 相続の開始前における遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可を受けたときに限り、その効力を生ずる。
2 共同相続人の一人のした遺留分の放棄は、他の各共同相続人の遺留分に影響を及ぼさない。