川崎の弁護士法人ASKが、相続・遺言に関して、連載でお届けします。

40年ぶりに相続に関して大きな法律改正がありました。
連載で順番に解説していきます。

まず第1回は、配偶者短期居住権【2020年4月1日施行】です。

配偶者短期居住権とはどんな制度?

配偶者は、相続開始時に被相続人の建物(居住建物)に無償で住んでいた場合に、

① 配偶者が居住建物の遺産分割に関与するときは、居住建物の帰属が確定する
日までの間(ただし,最低6か月間は保障)
② 居住建物が第三者に遺贈された場合や、配偶者が相続放棄をした場合には居
住建物の所有者から消滅請求を受けてから6か月

の間、居住建物を無償で使用する権利(配偶者短期居住権)を取得することができるというものです。

居住建物に被相続人(亡くなった人)が配偶者と同居していた場合、遺産分割協議が終了する前に追い出されてしまっては、もっとも重要な居住の安定が保てなくなってしまいます。
そうした、配偶者の居住権を保護しようというのがこの制度です。

どうして認められた?

実は、これまでも配偶者が直ちに追い出されるという訳ではありませんでした。
最高裁平成8年12月17日判決では、相続人が相続開始時に被相続人の建物に居住していたときは、被相続人と相続人との間で使用貸借関係(無償で建物を使用する契約関係)が成立していたと推認するとしていました。

ただ、この判例法理によれば、

・第三者に建物を遺贈してしまった場合
・被相続人が反対の意思表示をしていた場合

には、使用貸借が「推認」されなくなってしまい、配偶者の居住の保護に欠けるところがありました。
この改正によって、こうした場合であっても配偶者の居住の権利が最低6か月は保障される(=追い出されない!)ことになったのです。

注意点は?

ここでいう「配偶者」は法律上の婚姻関係にある必要があります。したがって内縁関係ではこの権利は認められません。
また、配偶者以外の者(子やきょうだいなど)にも認められていません
こうしたケースでは、平成8年最高裁判決にならうことになります(最高裁の判断は「配偶者」に限定されていません。)。また内縁の場合は、そもそも相続人でないことになりますので、遺言で対応する必要があります。

次の記事 【相続法改正】やり方次第で相続税がグッとお得に?配偶者長期居住権 


条文

 (配偶者短期居住権)
 第千三十七条 配偶者は、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に無償で居住していた場合には、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める日までの間、その居住していた建物(以下この節において「居住建物」という。)の所有権を相続又は遺贈により取得した者(以下この節において「居住建物取得者」という。)に対し、居住建物について無償で使用する権利(居住建物の一部のみを無償で使用していた場合にあっては、その部分について無償で使用する権利。以下この節において「配偶者短期居住権」という。)を有する。ただし、配偶者が、相続開始の時において居住建物に係る配偶者居住権を取得したとき、又は第八百九十一条の規定に該当し若しくは廃除によってその相続権を失ったときは、この限りでない。
  一 居住建物について配偶者を含む共同相続人間で遺産の分割をすべき場合 遺産の分割により居住建物の帰属が確定した日又は相続開始の時から六箇月を経過する日のいずれか遅い日
  二 前号に掲げる場合以外の場合 第三項の申入れの日から六箇月を経過する日
 2 前項本文の場合においては、居住建物取得者は、第三者に対する居住建物の譲渡その他の方法により配偶者の居住建物の使用を妨げてはならない。
 3 居住建物取得者は、第一項第一号に掲げる場合を除くほか、いつでも配偶者短期居住権の消滅の申入れをすることができる。

  (配偶者による使用)
 第千三十八条 配偶者(配偶者短期居住権を有する配偶者に限る。以下この節において同じ。)は、従前の用法に従い、善良な管理者の注意をもって、居住建物の使用をしなければならない。
 2 配偶者は、居住建物取得者の承諾を得なければ、第三者に居住建物の使用をさせることができない。
 3 配偶者が前二項の規定に違反したときは、居住建物取得者は、当該配偶者に対する意思表示によって配偶者短期居住権を消滅させることができる。

  (配偶者居住権の取得による配偶者短期居住権の消滅)
 第千三十九条 配偶者が居住建物に係る配偶者居住権を取得したときは、配偶者短期居住権は、消滅する。

  (居住建物の返還等)
 第千四十条 配偶者は、前条に規定する場合を除き、配偶者短期居住権が消滅したときは、居住建物の返還をしなければならない。ただし、配偶者が居住建物について共有持分を有する場合は、居住建物取得者は、配偶者短期居住権が消滅したことを理由としては、居住建物の返還を求めることができない。
 2 第五百九十九条第一項及び第二項並びに第六百二十一条の規定は、前項本文の規定により配偶者が相続の開始後に附属させた物がある居住建物又は相続の開始後に生じた損傷がある居住建物の返還をする場合について準用する。

  (使用貸借等の規定の準用)
 第千四十一条 第五百九十七条第三項、第六百条、第六百十六条の二、第千三十二条第二項、第千三十三条及び第千三十四条の規定は、配偶者短期居住権について準用する。