今回のブログでは、交通事故に遭い、不幸にして後遺障害を負ってしまった場合のなかで非常に多い,むち打ち損傷について見ていきたいと思います。
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1 むち打ち損傷と後遺障害
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(1)むち打ち損傷とは・・・
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むち打ち損傷とは何かという定義については難しいですが,一般的に「骨折や脱臼のない頚部脊柱の軟部支持組織(靭帯・椎間板・関節包・頚部筋群の筋・筋膜)の損傷」と説明されていますが,広く交通事故後,骨折や脱臼を伴わないが,頭頚部症状を訴えているものと捉えられているようです(保険毎日新聞社「交通事故におけるむち打ち損傷問題」25頁)。
病院での診断名は頚椎捻挫,外傷性頚部症候群とされることが多いと思います。
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(2)後遺障害
むち打ち損傷により,頚部痛等の症状が6ヶ月以上継続し,通院していた場合,後遺障害として残存する可能性があります。後遺障害の有無等については自賠責保険において認定されますが,頚部痛等の症状は「神経系統の後遺障害」と評価することになります。
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(3)後遺障害の等級について
頚部痛等の症状を「神経系統の後遺障害」と評価するにあたり,認定の基準上,後遺障害と認められるためには症状の存在が医学的に説明・推定できるときは「局部に神経症状を残すもの」として14級9号,神経系統の障害が他覚的に証明される場合には「局部に頑固な神経症状を残すもの」として12級13号が認定されます。
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2 14級と12級の損害額の違い
では、14級と12級とでどの程度の損害額の違いがあるでしょうか。
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(1)後遺障害慰謝料
後遺障害が認定されますとその認定の等級に応じて後遺障害慰謝料が認められます。慰謝料の額はおおよそ次のような金額となります(但し,個々の事案に応じて増減することはあります)。
ア 14級 110万円
イ 12級 290万円
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(2)逸失利益
後遺障害が存在することにより労働に影響が出てきますが,その等級に応じてどの程度,労働に影響が出るかを自賠責保険で定められております。また通常は後遺障害が残存するということは,一生涯,残存することとなり,その保障も就労が不能になる年齢まで(通常は67歳)ですが,むち打ち損傷による神経症状はその症状が年月により軽減することがあり,保障の年限が決められることが通常です。
14級と12級の逸失利益の保障の違いは次のとおりです(但し,個々の事案に応じて増減することはあります)。
ア 14級 年収の5%を5年間
イ 12級 年収の14%を10年間
もっとも,5~10年間の保障分を前倒しで一括賠償されるのが通常なので,実際には中間利息が控除されます。
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(3)具体的な金額の差異
では具体的に年収500万円の被害者が14級ないし12級に認定された場合の金額差はどの程度か計算してみますと
ア 14級の場合
・後遺障害慰謝料 110万円
・逸失利益 500万円×5%×4.5797(5年間の中間利息3%を控除した場合の係数)=114万4925円
・合計 224万4925円
イ 12級の場合
・後遺障害慰謝料 290万円
・逸失利益 500万円×14%×11.9379(10年間の中間利息3%を控除した場合の係数)=835万6530円
・合計 1125万6530円
このように14級か12級かでかなりの賠償額の差が生じるのがわかります。
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3 12級が認定される場合
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(1)総論
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上述したとおり,12級が認定される場合,賠償金の額も高額になりますが,高額になるということは,実際の症状はかなり重いケースになりますし,認定も容易ではありません。
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(2)認定基準
上述したとおり,神経系統の障害が他覚的に証明される場合とされていますが,具体的には①レントゲンやCT,MRI等の画像検査によって異常所見が認められること,②腱反射,筋力,筋萎縮,知覚等の神経学的検査に異常が認められること,③被害者の残存する障害とこれらの異常所見との間に整合性があることで他覚的に証明されることとなります。
つまり,①②については医師の検査で異常が認められ,③はその異常によって残存している症状が説明できる必要があります。
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(3)他覚的に証明できるが・・・
大前提として①②の異常が「交通事故による外傷」によって生じたものといえなければならず,この点がネックになることは多々あります。
もともとむち打ち損傷は骨折や脱臼などはっきりと交通事故により負傷したことで生じることはほとんどなく,もともとの老化現象により進行していた異常(椎間板ヘルニア等)が存在していたような場合もあるため,外傷によってという点がはっきりしない場合もあります。
ただ被害者としては交通事故によって発症したという動かない事実があります。またもともと異常があった人でも交通事故の衝撃により一気に発症したということはあり得え,その場合でも交通事故による外傷によりと認められることがあるため,症状が重篤で他覚的に症状が説明できる場合には,あきらめずに弁護士と相談して12級の認定をめざすべきだと思います。