今回のブログでは、交通事故に遭い、不幸にして後遺障害を負ってしまった場合の損害賠償についてみていきたいと思います。
1 後遺障害による逸失利益とは
(1)後遺障害とは・・・
後遺障害とは、受傷後、その回復を目指して治療をしたもののその全快には至らず心身に障害が残った状態をいいます。
(2)逸失利益とは・・・
逸失利益とは、本来であれば得られたはずの収入や利益が何らかの事情によって得られなくなった場合、その本来得られたはずの収入や利益を損害として把握するものです。
(3)そうすると「後遺障害」による「逸失利益」とは・・・
以上を踏まえると、後遺障害による逸失利益とは、後遺障害を負ったことにより、将来的に得ることができなくなった収入・利益を損害として把握するものとなります。
2 後遺障害の決まり方
では、後遺障害とはどのように決まるのでしょうか。
(1)前提としての症状固定
まず、後遺障害の前提として症状固定という概念があります。これは、受傷後医学上一般に承認される内容の治療等を続けていったもののこれ以上は治癒が見込めないという状態に至った時点をいいます。ここで注意が必要なのは、この症状固定とは法律上の概念であり、医学上の概念ではありません。それゆえ、医師が治療をすれば治る見込みがあるとしても、交通事故紛争上、それよりも早期に症状固定とする場合もあるということです。
(2)後遺障害の等級〜1級から14級まで〜
自賠責保険においては、後遺障害の内容に応じて重い方から順に1級~14級の等級を定めており、具体的な等級やその内容はこのとおりとなります。この内容は労災保険における後遺障害等級を自賠責保険においても準用したものとなっています。
3 後遺障害による逸失利益の賠償
(1)総論
以上のようにして等級が決まると、それに応じた逸失利益を算定することが可能となり、相手方に請求することができます。逸失利益の賠償は、後遺障害によって得ることができなくなった被害者の将来的な収入を補填するものであり、通常は将来にわたり刻々と逸失利益が発生することとなります。そして、通常は就労が不能となる年齢(通常は67歳までとされます。)まで補償を求めることができます。
(2)具体例
では、具体例でみてみましょう。
交通事故の傷害により肩の関節の動きが制限され、健康な肩より4分の3以下しか動かせなくなってしまった場合には、12級が認定されます。自賠責保険では12級の後遺障害の場合には、被害者の労働能力が14%失われたとして扱っており、そうすると毎年年収の14%が失われた利益として発生し、損害賠償の対象となります。
被害者が40歳(症状固定時)で年収が500万円の場合、毎年70万円の利益を失い、損害賠償の対象になると考えることとなり、67歳までの27年分の補償を求めることとなります。
(3)ところが・・・
単純に考えると、70万円✕27年分=1,890万円 の補償が受けられそうですが、後記5のとおり、実際にはこの金額に調整がなされます。
4 後遺障害による慰謝料の賠償
上記3は、後遺障害による逸失利益についてのお話でしたが、後遺障害認定がされるとその等級に応じて、後遺障害慰謝料というものも請求することができます。慰謝料とは精神的損害に対する損害賠償をいいますが、その額を定量的に算定することは至難の業ですので、後遺障害慰謝料はその等級に応じて定額化されています。
その定額化の基準については、基準によって額に違いがあります。具体的には、自賠責基準では等級に応じて32万円から1100万円となっており、他方でいわゆる裁判基準といわれるものでは同じく等級に応じて110万円から2800万円となっています。
5 賠償にあたっての中間利息控除
(1)中間利息控除とは
上記3(3)で言及したように補償に際しては調整が入ります。どのような調整かというと、中間利息控除といわれる調整が入ります。これは、次のような理由で認められている調整の方法です。
すなわち、交通事故の賠償請求をする場合、通常は将来分の損害を一括して前倒しで請求し、受け取ることになります。そうなると一括した金額を前倒しで受領するのであれば、当該金額を運用して増やすことも可能となります。そこで予めその運用利益を差し引いて賠償することが認められているのです。
現在、日本では超低金利時代ですが、民法では法定利率(現在は年3%、民法404条2項)で中間利息を控除することを認めており(民法417条の2第1項)、交通事故の賠償においては複利で運用することを前提として中間利息控除する扱いが一般的です。
なお、法定利率については前回のブログ(「交通事故の賠償方法が変わりました!交通事故と債権法改正における3つのポイント!」)も参照してみてください。
(2)中間利息控除の実際〜ライプニッツ係数〜
上記のとおり、運用利益をあらかじめ控除することで当事者間の公平を図っているわけですが、この操作にあたって活躍するのが「ライプニッツ係数」といわれるものです。
これは、中間利息を複利前提で控除するにあたって算出されたもので、法定利率が年3%の場合における数値は、このようになっています。
(3)具体例
では、ここでも具体例に沿ってみていきましょう。
上記の例で27年分の中間利息を控除する場合のライプニッツ係数(年3%)は18.327となっています。
したがって、実際に逸失利益の賠償を計算するにあたっては、70万円✕18.327=1282万8900円となります。このように、実際に年利3%で運用することは困難であるものの、このような中間利息控除による調整が認められています。
6 賠償の方法〜一時金払と定期金賠償〜
(1)一時金払と定期金賠償
年3%以上で複利運用が可能であれば、一括前倒しで賠償を受けることの方が得にはなりますが、よほどの投資のプロでもない限り、難しいと思われます。そうであるならば一括前倒しではなく、毎月、後遺障害で失われる利益を67歳まで補償して欲しいという要望があることも事実です。このような賠償の考え方を定期金賠償といいます。
(2)定期金賠償の過去・現在・未来
ア これまでの定期金賠償
従来、定期金賠償を認めている裁判例もありましたが、一般的には定期金賠償はあまり認められていませんでした。つまり、一時金での賠償となり、これまで述べてきた中間利息控除がされた金額の賠償を受けるということがほとんどでした。
イ 定期金賠償の現在と未来
しかし、最高裁判所が交通事故の被害者の後遺障害逸失利益について一定の場合において定期金賠償を認める判決を出しました(令和2年7月9日判決)。ではどのような場合に認められるかというと、同判例では①被害者が被った不利益を補填して不法行為がなかったときの状態に回復させる目的、②損害の公平な分担を図るという理念に照らして相当と認められる場合に、定期金による賠償が認められるとしています。
かなり抽象的な判断であり、具体的にどのような場合に認められるかは、裁判例の蓄積を待たなければならず、後遺障害のすべての事案で当然に定期金賠償が認められるわけではありません。
想定されるのは、後遺障害の内容が重く、かつ補償の期間が長期にわたり、中間利息を控除することが、被害者にとって酷な場合ではないかと思います。
したがって、被害者としては、中間利息されると将来の生活がなりたたないような場合には、定期金賠償の道が開かれたといえます。ただし、賠償責任を負う者が10年後、20年後も支払い能力があるかどうかというリスクにも注意が必要です。通常は、加害者の加入している任意保険会社から支払ってもらいますが、保険会社とはいえ、倒産のリスクがゼロというわけではありませんし、加害者が任意保険に加入していない場合には、定期金賠償はリスクの方が極めて高いと言わなければなりませんので、むしろ一括請求が妥当といえます。
7 まとめ
このように賠償額の算定に当たってはさまざまな考慮要素があり、その算定に基づいて賠償額を受領する場合も一時金で受け取るのか定期金で受け取るのか一筋縄ではいかない問題があります。
賠償額の算定やどのような方法で賠償を求めるかは、弁護士とよく相談をして検討された方が安心といえるでしょう。