川崎(じもと)の弁護士 伊藤諭 です。
今回は,自転車の交通事故に関する少しコワいお話。
 自転車事故
自転車は,老若男女が,免許など必要なく運転できる非常に便利な車両(軽車両)です。
上はおじいちゃんおばあちゃん,下は小学生,幼児などでも運転できます。
他方,自転車は,自転車同士,あるいは歩行者と接触する事故が多く,生身の人間同士の被害になりやすいので,思いのほか大きな怪我につながりやすいものです。
また,自賠責保険などの強制的な公的保険がなく,被害者にとっても加害者にとっても負担が大きくなりがちです。
そんな中,先日大きなニュースとしてこのような事件が取り上げられました。
小5自転車事故→はねた女性寝たきり 母親に9500万円賠償命令 神戸地裁
小学校5年生の児童の運転する自転車が坂を時速20~30キロで下った際、散歩途中の女性に衝突し,女性は頭の骨を折るなどして意識が戻らない状態になったという事故で,この児童の両親の監督責任が認められ,約9500万円もの損害賠償請求が認められたということです。
また,過去には,女子高生が夜間,携帯電話を操作しながら無灯火で運転し,歩行者と接触して重大な障害が残る怪我をさせた事故で約5000万円の請求が認められたケースもありました。
今回の報道の論調としては,高額の賠償責任というところがクローズアップされていましたが,実はみなさんにとって,いろいろなことを示唆する事案なのです。
1 そもそも親の責任なのか
 子供が事故を起こしたとき,それが誰の責任なのかという問題です。
 幼児が人を傷つけたら親の責任,オトナが同じことをしたら本人の責任というのは分かりやすいですね。
 問題はその中間をどうするか。
 民法では,未成年者に責任能力がない場合(およそ12歳前後が基準),監督責任を負う者が責任を負うとしています。

第712条
未成年者は、他人に損害を加えた場合において、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは、その行為について賠償の責任を負わない。

第714条
前二条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。

  今回の小学生の事件は(判決文は読んでいないので報道を見た推測になりますが),小学5年生ということでおそらく児童本人の責任能力が否定されて監督義務者の責任が認められたものと考えられます。
 では,女子高校生の事案ではどうでしょうか。
 当時16歳の女子高校生であれば,通常,責任能力は認められます。
 そうなると,監督義務者(両親など)の責任は第714条では発生しません。
 監督義務者本人が,被害者に対する責任を発生させるような落ち度を「被害者側」で証明しなければ監督責任者の責任は認められないことにあります。
 実際に,ここの証明は非常に困難で,この件でも,女子高校生本人の責任は認められましたが,父親の責任は認められませんでした。
 一般的には,支払い能力があるのは未成年者よりも親のほうだと思いますので,被害者側にとっても大きな問題です。
2 どうしてこのような高額の責任が認められるのか
 自動車事故に比べて自転車事故はそこまで大きな問題にならないのではないかという素朴な発想がこのような報道になっているものと思われますが,
 自動車事故であれ,自転車事故であれ,損害の計算の仕方は同じです。
 賠償責任が高額になりやすいのは,死亡事故よりも,寝たきりのような重度の障害が残る後遺障害事案です。
 慰謝料もさることながら,逸失利益(今後将来得られたであろう収入の補てん),将来の看護費用,場合によっては自宅の改装費用などを積み重ねることになり,非常に高額になりやすいものです。
 自転車だから,子供がやることだから,といって甘く見ていると大変なことになります。
3 支払いはどうするのか
 裁判で判決になれば,一括での支払い義務が生じます。また,完済するまで年5%の損害金も発生し続けます。
 このような事態に備えるのが,保険です。
 ここで特定の保険をお勧めすることはいたしませんが,他人に対して賠償義務を負ってしまったときの保険として「賠償責任保険」があります。
 単独で加入することもできますし,自動車保険などの特約で付いていることもあります。
 通常,世帯で入っておけば,家族が賠償義務者になってもカバーできます。
 もちろん,自転車事故のみならず,漏水や,ペットのかみつき,レジャー(例外はあります)など,様々な事故に対応できます。
 社会生活を行っていれば,いつ自分がどのような形であれ加害者になるとも限りません。
 安心の費用は常に前払いです。
 保険でカバーできなければ自前で用意するしかありません。
 支払えなければ,破産など法的な整理方法を検討することになります。
 こういった損害賠償責任の場合には破産できないという認識の方がいらっしゃいますが,これは正確ではありません。
 免責(支払い義務をなくさせること)されないおそれがある事由(免責不許可事由)に当然に当たるものではないので,免責は認められるのが通常です。
 ただ,免責を受けても,免責の対象でなく,支払い義務が残る債務がありますが(税金,罰金,養育費など),自転車事故による賠償責任がこれにあたる可能性はあります。
 その場合でも,この事故の責任が「故意又は重過失」によるものであることを被害者側で証明しなければなりません。
事故は被害者も加害者も不幸にします。
くれぐれも安全運転を心がけてください。
困ったときは弁護士にご相談ください。

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