別荘地というと、どんなイメージを持つでしょうか?高原の湖の畔に立つログハウスのような家でしょうか。
それとも、ザ・別荘地!といったような、避暑地で開発が進んだようなきれいな別荘郡といった感じでしょうか。
いずれにせよ、別荘は、一定期間空き家状態になることが想定されるはずです。
そして、その間の管理を担ってくれる管理会社などもあります。
今回は、そんな契約に関する紛争を扱った東京高裁判決令和7年7月1日をご紹介します。
事案の概要
本件は、別荘地の管理会社(X)が、管理契約を解除したと主張して管理費等の支払いを拒んでいた別荘所有者ら(Yら)に対し、滞納分の共益費等の支払いを求めた事案です。
争点として、受任者の利益の有無、管理契約の解除の成否などが問題となりました。
本件管理契約の解除が有効かどうかを判断するため、以下の点が具体的な争点となりました。
- ① 契約の性質:本件管理契約が「準委任契約」に該当するかどうか。
- ② 受任者の利益:この契約が、所有者だけでなく受任者(管理会社X)などの利益をも目的としているといえるか。
- ③ やむを得ない事由:Yらが行った解除について、やむを得ない事由が認められるか。
- ④ 解除権放棄の成否:Yらが契約の解除権そのものを放棄したとはみなせないような、特別な事情が存在するか。
- ⑤ 継続的契約の解除事由:長期にわたる「継続的契約」として、それを解除するための正当な事由があるか。
これら争点についての裁判所の判断
原審(静岡地裁沼津支部判決令和7年1月9日)
- 争点①(契約の性質):本件管理契約は単純な準委任契約ではないものの、その性質を持たない部分は全体の一部にすぎないため、民法の準委任契約の規定が適用されると判断しました。
- 争点②(受任者の利益):本契約は管理会社(X)の利益を目的としたものとはいえないため、所有者(Yら)は民法651条1項に基づき自由に解除できると認めました。
- 争点③(やむを得ない事由):Yらによる本件各解除には、やむを得ない事由があると認めました。
- 争点④(解除権の放棄):Yらが契約の解除権自体を放棄したとは解されない特段の事情があると判断しました。
- 結論:解除の有効性を認め、解除後の支払義務はないとしてXの請求を棄却しました(一部認容されたY6〜Y8を含む各当事者がこの判決に不服として控訴しました)。
本判決(東京高裁判決令和7年7月1日)
控訴審は、1審判決を変更し、所有者(Yら)による解除を認めないとの判断を示しました。
- 争点①(契約の性質):1審と同様に、本件管理契約には準委任契約の性質があると判示しました。
- 争点②(受任者の利益):1審とは異なり、本件管理契約は受任者である管理会社(X)の利益のためにも締結されたと認めました。
- 争点③(やむを得ない事由):Yらによる本件各解除について、「やむを得ない事由」があるとは認められないと判断しました。
- 争点④(解除権の放棄):Yらが契約の解除権自体を放棄したものとは解されない事情があるとは、認められないとしました。
- 争点⑤(継続的契約の解除事由):本件管理契約を維持しなければならない高度の必要性があり、終了させることは正義に反するとして、解除の効力を否定しました。
- +α(時効の判断):管理契約の解除は認めず1審判決を変更しましたが、一部の被告(Y6、Y8)が主張した短期消滅時効の成立については認めました。
解説
(準)委任契約における解除の枠組み
委任契約の解除に関する法理の整理
- 【基本ルール】原則として「いつでも解除可能」
- 民法651条1項により、委任契約は各当事者がいつでも解除できるのが原則です。
- 解除が「制限」される場合(例外)
受任者や第三者に正当な利益がある場合、委任者による自由な解除は制限されます。
- 受任者の利害関係:受任者が事務処理について法律上正当な利害関係を持つ場合、解除権の放棄を約束させる(=解除を制限させる)ことが可能です 。
- 第三者の利益:契約が第三者の利益も目的としている場合、委任者は自由に解除できなくなります。
- 制限があっても「解除できる」場合(さらなる例外)
上記2のうち委任事務の処理が受任者の利益でもあるような場合のように、解除が制限される状況であっても、以下の場合は民法651条に基づき解除が認められます。
- やむを得ない事由がある:受任者が著しく不誠実な行動をとった場合など。
また、上述のやむを得ない事由がなくても、次のような場合には、651条に則り解除が認められます。
- 解除権を放棄していない:委任者が解除権自体を放棄したものとは解されない事情がある場合。
本件での主張構造
解除の有効性をめぐる双方の主張は以下のとおりです。
- Yら(所有者側)の主張
- 委任契約において、委任者と受任者の対等な関係を維持するためには、委任者が受任者をコントロールできる手段が必要である。
- その実効性を保障するため、「やむを得ない事由」による解除のハードルは、ある程度緩やかに認められるべきである。
- 今回の事案において、解除を正当化する具体的な事由が存在する。
- 仮に「やむを得ない事由」がないとしても、Yらが契約の解除権自体を放棄したとは解されない特別な事情がある(=解除が可能)。
- X(管理会社側)の主張
- Yらが主張する事実は、いずれも判例上の「やむを得ない事由」には該当しない。
- Yらについて、本件管理契約の解除権自体を放棄したものとは解されないような特別な事情があるとはいえない(=解除が不可能)。
別荘地の管理費問題に関連して
本件とは異なる事案ですが、今回紹介した事案の前日である令和7年6月30日に、ひとつの最高裁の判断が示されました。
いずれにも通底するのは、管理会社による管理がなされている別荘地においては、管理により別荘である不動産の価値が維持されているのであり、それは保護すべきであるといった価値判断があるのかもしれません。




