自動車の利用をせずに生活をするのは難しい今の世の中です。事故ゼロを目指して自動車メーカーは努力していますが、なかなか事故ゼロというのは難しく、社会的課題ともいえるでしょう。
特に運送業や建設業など車両の利用を必然的に伴う業種においては、重要な問題です。
今回取り上げるのは、業務委託先の従業員が起こした自損事故につき、委託元の会社が従業員に対してその損害の賠償を求めたものの、その請求が信義則に基づいて制限された事例(東京高裁令和6年5月22日判決)です。

事案の概要

X社(建設会社)

A:X社との間で業務委託契約を結んでいた

事業主 Y:Aの従業員(平成31年1月当時)

平成31年1月28日 Yが、Xの業務執行のためにX所有の車両(トラック)を運転していたところ、車道左側のガードレール等にそのトラックを衝突させる自損事故を起こした。
平成31年3月13日 同様に、Yが、X所有のトラック(上記とは別の車両)を運転していたところ、高速道路上で横転させる自損事故を起こした。
XがYに対して、不法行為を理由に上記2事故について生じた損害407万5940円及び遅延損害金を求めた事案

※Yは、最終的にAからXの従業員となったが、3月の事故時点でXの従業員となっていたのか、その時点ではまだAの従業員であったかについて当事者間に争いあり。
※Xは、いずれの事故でも車両保険に加入していたが、免責金額を各事故20万円としており、Xが負担した計40万円については補償を受けられていない。

また、代車代、逸失利益については、車両保険の対象外であった。

裁判所の判断

原審の判断

Xの請求を一部認容(未弁済額の25%・2万2000円余り)。当事者双方控訴。

控訴審の判断

使用者の被用者に対する損害賠償は、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度においてのみ請求できるとする最高裁判決(昭和51年7月8日)を引用した上で、YはXの従業員から直接具体的な指示を受けていたこと、Xの車両、工具、資材等を使用していたことなどのXとAの実働実態を踏まえると、それがXとAとの雇用関係成立の時期に争いがある本件においても妥当すると判断しました。
そして、事案の解決としては、XがYに対して請求できる損害賠償の範囲は信義則上損害額の10%を限度とするのが相当であると判断し、その全額がAから弁済されたことを理由に、Xの請求を棄却すべきとしました。

おわりに

本件は、問題となった事故発生時には、当事者は委託元と委託先という関係でしたが、より広く、会社と従業員という立場ですと、その当事者間における求償関係は、信義則に基づいて制限されることがあります。

本件は、旧来の判例の立場に基づいて実働の実態を踏まえ、その判例の射程が及ぶと判断したものです。解決としては妥当なものといえるでしょう。

使用者と被用者との間の問題は、今回のようなものから人事労務関係、労災など多岐にわたります。

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