こんな報道がありました。 http://www.asahi.com/articles/ASK6K3TKNK6KTIPE008.html

実の娘を連れ去った疑い、父ら5人を逮捕 離婚調停中

 実の娘2人を連れ去るなどしたとして、福岡県警は17日、父親で仙台市の自称会社員A容疑者(40)とその両親ら計5人を未成年者略取と未成年者略取未遂の疑いで逮捕し、発表した。A容疑者は妻と離婚調停中で、「母方の両親と話した上で連れ帰るつもりだった」と容疑を否認している。 八女署の発表によると、A容疑者らは共謀し、16日午後2時40分ごろ、福岡県八女市の妻の実家で、長女(5)を車に乗せて連れ去り、次女(1)を連れ去ろうとした疑いがある。

離婚協議で親権者をいずれにするかという争いはよくあります。そしてしばしば、(未成年の子にとっての)両親の両親を巻き込んだ親戚一同の大戦争になることも珍しくありません。 でも、離婚調停中ということは、離婚は成立していないということです。 つまり、このA容疑者は、妻とともにまだこの子供達の親権者であるはずです。 親権者が自分の子供を連れて行っても未成年者略取罪が成立するということに違和感があるかも知れません。 最高裁判所平成17年12月6日判決は、

 被告人は,Cの共同親権者の1人であるBの実家においてB及びその両親に監護養育されて平穏に生活していたCを,祖母のDに伴われて保育園から帰宅する途中に前記のような態様で有形力を用いて連れ去り,保護されている環境から引き離して自分の事実的支配下に置いたのであるから,その行為が未成年者略取罪の構成要件に該当することは明らかであり,被告人が親権者の1人であることは,その行為の違法性が例外的に阻却されるかどうかの判断において考慮されるべき事情であると解される(最高裁平成14年(あ)第805号同15年3月18日第二小法廷決定・刑集57巻3号371頁参照)。 本件において,被告人は,離婚係争中の他方親権者であるBの下からCを奪取して自分の手元に置こうとしたものであって,そのような行動に出ることにつき,Cの監護養育上それが現に必要とされるような特段の事情は認められないから,その行為は,親権者によるものであるとしても,正当なものということはできない。また,本件の行為態様が粗暴で強引なものであること,Cが自分の生活環境についての判断・選択の能力が備わっていない2歳の幼児であること,その年齢上,常時監護養育が必要とされるのに,略取後の監護養育について確たる見通しがあったとも認め難いことなどに徴すると,家族間における行為として社会通念上許容され得る枠内にとどまるものと評することもできない。以上によれば,本件行為につき,違法性が阻却されるべき事情は認められないのであり,未成年者略取罪の成立を認めた原判断は,正当である。

と判断しています。 つまり、親権者であっても原則として未成年者略取罪が成立し、「家族間における行為として社会通念上許容され得る枠内にとどまる」といった一定の場合でなければ違法性を有するということです。 ただ、実際の運用において、この家族間における行為として社会通念上許容され得る枠内にとどまる」といった違法性阻却事由(違法でなくなる要件)というのは、相当厳格に適用されている印象があります。 本件においてはどのような事情かは分かりませんが、母親である妻側の監護状況が平穏なものであれば、違法性がなくなるというのは難しいかも知れません。 もっとも離婚調停中ではあっても家族間の問題であることから、子供を元に戻せば起訴猶予になる可能性は十分あるものと思われます。 では、実際に通るかどうかはともかく、この父親にとってまったく手段がなかったのかというと必ずしもそうではありません。 父親の立場としては、子の監護権者の指定と子の引き渡しの審判(調停)の申立てを取ることを考えるべきだったのです。 確かに、子供の年齢からすると実態として母親に監護権者が指定されることが多く、これらの申立てをしても認められる保証は全くありませんが、自分たち(今回は親戚一同)が実力行使をして逮捕されてしまえば、まったく元も子もありません。 親戚一同が共犯となって未成年者略取をしてしまうと、そのあとでまっとうな手続きを取っても、その申し立てが認められる可能性は極めて低くなってしまいます。 本件に関しては、ハーグ条約とは関係ありません。 印象としては、これが事件化されてしまった時点で勝負あったという感があります。どういう事情があるにせよ、実力行使は絶対にダメ。自分の首を絞めるということは分かっておいてください。