先日、弁護士法人アディーレ法律事務所(アディーレ)が所属する東京弁護士会から業務停止2か月の懲戒処分を受けたとの報道がありました。
(他に、元代表社員である石丸幸人弁護士にも業務停止3か月の懲戒処分がなされたとのことです。)

このような全国展開している弁護士法人全体が業務停止の懲戒処分を受けたのはおそらく初めてのことです。

全国に多数の顧客や関係者がいることから、東京弁護士会も会長談話を出して、臨時相談電話窓口を設けているようです。

弁護士法人アディーレ法律事務所らに対する懲戒処分 … – 東京弁護士会


弁護士法人の業務停止とは?

個人である弁護士と同様、弁護士法人も非行があれば所属弁護士会から懲戒処分を受けることになります。

弁護士法人に対する懲戒処分は次の通りです。

弁護士法57条
2 弁護士法人に対する懲戒は、次の四種とする。
一 戒告
二 二年以内の弁護士法人の業務の停止又はその法律事務所の業務の停止
三 退会命令(当該弁護士会の地域内に従たる法律事務所のみを有する弁護士法人に対するものに限る。)
四 除名(当該弁護士会の地域内に主たる法律事務所を有する弁護士法人に対するものに限る。)

今回は、「二 二年以内の弁護士法人の業務の停止又はその法律事務所の業務の停止」のうち、弁護士法人の業務の停止2か月が選択されたことになります。

「弁護士法人の業務の停止」と、「弁護士法人の法律事務所の業務の停止」の2種類があります。

非常にわかりにくいのですが、弁護士法人全体の業務停止か、弁護士法人に属する一部の法律事務所(法人によって「支店」とか「支部」などという呼び方をしているところもあります)の業務停止かと考えていただければ結構です。

今回は、「弁護士法人の業務停止」なので、全国各地に所在しているアディーレすべて2か月間業務を停止しなければならないのです。

業務停止になった場合の措置については日弁連の「弁護士法人の業務停止期間中における業務規制等に ついて弁護士会及び日本弁護士連合会の採るべき措置に関する基準」(基準)に定められています。

業務停止になると、
①すべての受任事件について、依頼者との契約を解除しなければならない。
②すべての顧問契約を解除しなければならない。
③裁判所に期日変更や期日延期の申請をすることができない。書類の送達や送付を受けてはならない。
④法人の業務を行うために事務所を使用してはならない。
⑤法律事務所であることを表示する表札、看板等を除去するか、業務停止中であることの表示等をしなければならない。
⑥法律事務所名を表示した名刺、封筒などを使用してはならない。
などといった制約を受けることになります。

なお、個人である弁護士が業務停止になった場合は、記章(バッヂ)や身分証明書を弁護士会に返還する必要があります。

業務停止で特に厳しいのは、①と②でしょう。アディーレの場合、大量の広告やウェブサイトがありますので、⑤も相当に大変だと思います。

2か月の間だけ業務を休めばみそぎが済むわけではありません。

大量に処理をしてきた事件によるキャッシュフローがいったん全部ストップしますし、2か月後にゼロからスタートしたとしても、依頼者が戻ってくるかどうか一切不明で、仮に戻ってきたとしても、現金収入が入るまで運転資金を捻出しなければなりません。

また、契約解除に伴う着手金等の返還も相当数に及ぶ可能性があります。

契約上、「理由の如何を問わず受領した費用は返還しない」といったような条項があるかもしれませんが、消費者契約法等から、少なくともその効力について争いは生じるでしょう。

最も困るのが、信用問題です。

特にアディーレの場合、知名度が抜群である反面、そのマイナスイメージもそのぶん大きく、長く残ってしまうことが予想されます。

ちなみに業務停止の処分は、即時に効力が発生します。

裁判のように、地裁、高裁、最高裁まで争って確定した段階で執行というわけではありません。

不服の申立(日弁連に対する審査請求、東京高裁に対する処分取消の訴え)が予定されておりますが、この手続を取れば業務停止がいったん止まるわけではありません。

日弁連に効力停止の申立をして認められたら、いったんその業務停止の効力は停止しますが、審査請求などで結論が変わらなかったり、より短い業務停止になったとしてもまだ残りの期間があるときは、再び残りの期間について業務停止の効力が発生します。

つまり、事実上2回業務停止を受けた結果と同じこと(上の措置をもう一度やり直す)になるかも知れないのです。

業務停止「2か月」の意味

実は、業務停止「2か月」という期間には大きな意味があります。

上の基準によれば、業務停止が1か月以下であれば、受任事件や顧問契約を解除しなくてもよい余地があるのですが、1か月を超える期間の場合にはそうした例外がありません。

つまり、懲戒委員会が業務停止1か月でなく「2か月」を選択した時点で、アディーレが受任している事件等についてすべての辞任を強制したことになるのです。

1か月であれば、着手金の返還の問題や、業務停止期間が明けた後の再受任がありえたのに、2か月になってしまったがために、こうしたチャンスを極端に縮めてしまったことになります。

抜け道がある?

ところで、アディーレが受任している事件について、個人である弁護士が引き継ぐことで継続できるという抜け道があるかのような報道がなされています。

しかし、個人が引き継ぐことができるというには、
①業務停止になった時点で個人として受任していた場合
②弁護士法第三十条の十九第二項(社員弁護士による個人事件受任の原則禁止)の規定に抵触しない場合であってかつ依頼者が受任を求めるとき
に限定されており、
②の場合でも、依頼者に働きかけをしてはならず、なおかつ、業務停止に係る説明を受けて委任した旨の書面を受領しなければなりません。

この書面は
「私はアディーレが業務停止期間中であることを分かったうえで○○弁護士に委任します。」
という内容になると思われます。

普通に考えれば、心理的ハードルは極めて高いとおもうのですが…

まだまだ、この問題については今後動きがありそうです。