川崎の弁護士の伊藤です。

強姦致傷罪で逮捕勾留されていた高畑裕太さんが不起訴で釈放になったそうです。 ふつう、示談成立で釈放って、釈放段階ではまだ処分保留の場合が多いと思うんですが、報道によると「不起訴」なんだそうです。
結果としては、落ち着くべきところに無事に落ち着いたということで、刑事弁護事件としては成功と評価していいと思います。

有名人の性犯罪ということで、どうしても注目を集めてしまっていますが、仮に私が刑事弁護人だったらどうするかという点で、報道されている事実関係をベースにして(相当推測が入りますが)説明したいと思います。

逮捕されてから

誰からの要請かはわかりませんが、ご自身から(弁護士を呼んでほしいとお願いすれば呼んでくれます。もっともこの場合は従前からの知り合いでないとすぐに呼べないでしょう。宛てがない方は当番弁護士を呼ぶこともできます。)ないしはご家族から依頼を受ければ、まず身柄のある警察署に出向き、ご本人と接見し事情を聞きます。

ご本人からは(今日までの報道のなかで固いところを採用して想像すると)ビジネスホテルの従業員が被害者らしい、性交渉はあったらしい、それがあった比較的すぐに逮捕されたらしい、といったことを聞き取ることができたとします。

まず考えることは、(現実的かどうかはともかく)身柄の解放です。つまり勾留させない活動を考えます。裁判所が勾留決定を出すと、原則として10日間、場合によってはさらに10日間身柄を拘束されて捜査をされることになってしまいます。

ご本人は、被害者の同意があった、と言っていたとしても、被害者がビジネスホテルの従業員であることや、行為直後に逮捕(=つまりすぐに被害の申告、告訴があった)されていることから、少なくとも被害者側は同意していないことは客観的に明らかな状況だと考えます。
つまり、この段階から「同意があった」ことを前提に今後の後半まで見据えて闘うことを決めるのはあまりに無謀だということです。

そうすると、弁護人の戦略としては被害者との示談交渉しかありません。「カネで解決するのか」との問いに対しては、その通りとしかいいようがありません。被害者が負っている心の傷を慰謝するには最終的にお金に見積もるしかないのです。少なくとも「加害者側」の立場では。

即座に家族の協力を得て、示談交渉のためのお金を用意してもらい、また身元引受人として適切な人から今後の監督に関する誓約書を書いてもらって、そうした資料を検察官、裁判所に提出します。
今後は身元引受人が責任を持って監督するとともに、被害者との接触は弁護人を通じてしか行いません(加害者が被害者に直接接触することは、証人になるべき人を脅すなどのおそれがでてきます。)という説得を裁判所に試みます。

勾留が認められる要件としては、逃亡のおそれ、罪証隠滅のおそれがあって、勾留の必要性があることですので、これらについて少しでもつぶすことが必要になってきます。

もっとも、強姦致傷という罪名では勾留が認められる可能性のほうが高いでしょう。

勾留中

勾留中は、本人との接見を繰り返しながら、1日も早い示談の成立を目指します。

確かに、強姦致傷罪は親告罪(告訴がないと起訴できない犯罪)ではありませんので、示談ができて告訴取消しをしてもらっても、起訴されてしまう可能性はあります。

もっとも、よほど傷害の結果が重篤などの事情がない限りは、性犯罪において被害者の意向に反して起訴することはまれですし、逆に示談ができてないと万が一起訴された場合、相当期間の実刑になってしまうおそれがあります。
つまり、示談成立が刑事弁護人としてはベストアンサーなのです。

他方、示談が被害者に不利益かというとそのようなことはありません。

先に述べたとおり、被害者側として加害者に権利として請求できるのは金銭しかありませんので、示談が成立しなければ、被害者側が積極的に加害者に対して賠償を求めていかなければならなくなります。刑事事件が続いている間というのは、加害者側から被害者に対してこうした賠償を働きかけてくる期待ができる最後の機会でもあります。

ただし刑事事件、特に性犯罪の示談交渉は非常に慎重に行う必要があります。
まず、被害者の方が弁護人と会ってくれるというのが最初の難関です。通常、検察官を通じて被害者に弁護人が会いたがっているという話をしてもらうのですが、加害者側の人間(間違ってないのですが)と会うのに抵抗を感じるのは当然だと思います。

そうした抵抗を超えて無事会ってもらえたという場合、弁護人が弁護士であることを信用してくれて会ってくれたということがほとんどですので、その信用を裏切るようなことがあってはいけません。
たとえば、ほとんどがそうなのですが、被害者の情報は弁護人限りにしてほしい、加害者(=依頼者)には伝えないでほしいといわれた場合、それは守らなければなりませんし、そこを守らないと話がそこで壊れてしまう上、弁護士としての懲戒処分を受けることもあり得ます。

被害者に対しては、弁護人の立場、先に述べた示談の趣旨を丁寧に説明します。被害者側の利益ばかりでなく、被疑者本人に予想される利益も説明しなければなりません。示談に応じてくれるということは被疑者本人の刑事処分に有利に判断され、不起訴になる可能性が高いと正直に説明しないとだまし討ちになってしまいます。
示談成立後に、検察官は被害者に必ず電話等で意向を確認します。
そのときに「そんな話は聞いてない」と言われてしまうと、全てが水の泡になってしまいかねません。

示談の趣旨を説明した上で、端的に支払い可能額を提示し、付随的な条件(これはケースバイケースで様々あります。)についての希望をお聞きします。
被害者側から具体的な条件が出てきたら、事前に本人に同意してもらっていた内容を超えている場合、持ち帰って被疑者本人や家族と相談し、受諾可能かどうかということを検討します。

こうして、何度かの協議を経てガラス細工を積み重ねるように双方の合意を示談としてまとめ上げるわけです。

高畑淳子さんの記者会見のときに、「被害者と会ったのか」とか「被害者に会って謝罪することが先ではないか」みたいな質問があったかと思いますが、余計なことです。被害者がそれを求めてなければ、こじれます。

示談金の「相場」というものがないとはいいませんが、事案によって「相場」があてにならないなんていうことはザラにあります。「相場」より下の提案しかできない場合も当然ありますし、遙かに上回ったとしても被疑者本人が早期の解決のほうを望む場合もよくあります。
事案が違えば、そもそも「相場」自体も変わってきます。犯行そのものの悪質性だけでなく、今回のように、被害者が日本中から好奇の対象として見られてしまう状況になってしまえば、当然それに見合う慰謝料額は上がってしかるべきです。

つまり、第三者が「相場」なんていうものを判断することはできないのです。

示談成立後

示談が無事成立すれば検察官に速やかに報告し、場合によっては意見書を提出します。検察官としては不要な勾留はしない傾向にありますので、不起訴見込みであれば当日中に釈放されることもよくあります。

今回は耳目を集める事件だったので、おそらく今日示談が成立したのでしょう。

起訴された場合

それでも起訴されてしまった場合は、セカンドベストの解決を目指します。

今回で言えば、執行猶予獲得が目標になるだろうと思います。

「同意」があったということで無罪主張するのであれば、先の示談交渉においても相当気を使っておく必要があります。

被害者は、犯行そのもののみならず、勾留中の示談経過においてまで証言していくことになるでしょうから、公判における主張と矛盾を指摘されてはマズいことになります。

つまり、一番最初の見立てが重要になってくるわけです。

本日の弁護人のコメントについて

前置きが長くなりました。

冒頭で述べたとおり、刑事事件の処理としては成功だと思うのですが、どうにも理解できないコメントが弁護人から出てきたようです。

高畑裕太の顧問弁護士が報道陣にコメント 「悪質な事件ではなかった」

以下引用

今回、高畑裕太さんが不起訴・釈放となりました。
これには、被害者とされた女性との示談成立が考慮されたことは事実と思います。しかし、ご存じの通り、強姦致傷罪は被害者の告訴がなくても起訴できる重大犯罪であり、悪質性が低いとか、犯罪の成立が疑わしいなどの事情がない限り、起訴は免れません。お金を払ば勘弁してもらえるなどという簡単なものではありません。一般論として、当初は、合意のもとに性行為が始まっても、強姦になる場合があります。すなわち、途中で、女性の方が拒否した場合に、その後の態様によっては強姦罪になる場合もあります。
このような場合には男性の方に女性の拒否の意思が伝わったかどうかという問題があります。伝わっていなければ、故意がないので犯罪にはなりません。もっともこのようなタイプではなく当初から脅迫や暴力を用いて女性が抵抗できない状態にして無理やり性行為を行うタイプの事件がありこれは明らかに強姦罪が成立します。違法性の顕著な悪質な強姦罪と言えます。
私どもは高畑裕太さんの話は繰り返し聞いていますが、他の関係者の話を聞くことはできませんでしたので、事実関係を解明することはできておりません。
しかしながら知りえた事実関係に照らせば、高畑裕太さんの方では合意があるものと思っていた可能性が高く、少なくとも逮捕時報道にあるような電話で「部屋に歯ブラシを持ってきて」と呼びつけていきなり引きずり込んだなどという事実はなかったと考えております。つまり、先ほど述べたような、違法性の顕著な悪質な事件ではなかったし、仮に、起訴されて裁判になっていれば、無罪主張をしたと思われた事件であります。以上のこともあり、不起訴という結論に至ったと考えております。

何が言いたいんでしょうか?

(おそらく今日まとまった)示談というのは、お互い言いたいことがあったとしても、双方そこは飲み込んで解決を優先させましょう、というものです。

示談がまとまったんだけど、私は無罪です。女性のほうも性交渉に同意していると思ってました。検察官も私のことを悪質だと思ってませんでした。

っていうことを言って、だれが納得するんでしょうか。誰が得をするんでしょうか。

反論する機会のない被害者側は、せっかく解決できると思ったのにさらに一方的に名誉を毀損されるような仕打ちをよりによって弁護人からされて、だまされたと思わないでしょうか。

ガラス細工でまとまった示談を自分からぶちこわすようなこのコメントは、意図すら分かりません。高畑さんにすら有利になることはないとおもいますが。

示談金額を詮索すること

「示談」と聞くと、お金がいくら動いたのかに俄然興味を持つ人も少なくありません。

しかし、性被害に遭ったというだけで苦痛を味わっている被害者が、加害者が有名人というだけで、状況がどうの、年齢がどうの、容姿がどうのと詮索され、示談が成立したら今度は、有名人だから大金を積まれたのだろう、足下を見て大金をせびったのかもしれない、などと詮索され、さらなる精神的苦痛にさいなまれるということをもっと理解しなければなりません。

私が「弁護人」だったとしても、示談成立後の被害者がいろいろ言われることは耐えられないだろうなと思います。みんな納得して解決したのだからほっておいてくれと。(「みんな」には世間の人や第三者は含みません。)

だからこそ、上の弁護人のコメントは全く理解できないのです。

はあ、久々のブログで書きすぎた…

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